「危ない!」川辺に立つ認知症の女性…慌てて声をかけて制止した見守り配達員の1日【体験談】

「危ない!」川辺に立つ認知症の女性…慌てて声をかけて制止した見守り配達員の1日【体験談】
認知症の女性が溺れないように制止する女性のイメージ

数年前、知り合いから頼まれたのをきっかけに、高齢者向けに見守りも兼ねた弁当配達パートを始めました。私自身50代で、同居している義両親や、遠方の実家で1人暮らしをしている母の介護に日々不安を感じています。そんななか、配達先で大きな川沿いの木造平屋に住む80代で1人暮らし女性のMさんと出会いました。Mさんは認知機能が低下していて、生活も荒れた状態でした。「1人暮らしの高齢者」の暮らしぶりを垣間見た、弁当配達員の体験談です。

★関連記事:電話も贈り物も忘れてしまう認知症の母。記憶が消えていく現実に虚しさが込み上げて【体験談】

認知症の女性1人暮らし、玄関が使えない

Mさんは80代の女性、一級河川沿いの古い木造平屋で1人暮らしでした。事前に、お弁当店の店長からは、「Mさんには認知症の傾向があるらしいので気に留めておいて」と言われていました。

配達初日に訪れてみると、Mさんの暮らしぶりはたしかに荒れた状態でした。玄関で呼び鈴を鳴らしてお弁当を渡そうとしましたが、玄関の内側には物があふれているらしく、Mさんはゴソゴソするばかりでなかなか玄関にたどり着けません。やっとたどり着いても、玄関の鍵の開け方がわからない様子でした。

私は、どこかお弁当を渡しやすい場所がないかと、家のまわりを見てまわりました。ガラス戸は長く開いた形跡がなく、中の障子もビリビリと破れたまま、勝手口の周辺も物が積まれている状態で寄りつけませんでした。唯一開閉できそうなのが居間の窓でした。「Mさん、この窓を開けてくださーい!」と声をかけた私。庭木は伸び放題で、枝を避けながら進まなくてはなりませんでしたが、どうにか枝をかいくぐり窓をノックして、どうにかお弁当を渡しました。Mさんはほとんど表情を変えずに、そっと手を伸ばしてお弁当を受け取りました。

それから、窓越しにお弁当を届ける日々が始まりました。Mさんはいつも無表情で無言、何を思っているのかは読み取れませんでした。

誰?見慣れない県外ナンバーの車

ある日、Mさん宅へ配達に訪れると、見慣れない県外ナンバーの車が停まっていました。庭を抜け、家の窓を叩くと、40代くらいの男性が顔を出し、お弁当を受け取ってくれました。室内にはMさんの姿がありました。

私はいったんお弁当店への帰路についたのですが、無表情で座っていたMさんの様子を思い出すと、急に不安になってきました。「もしかしてあれはまったくの他人で、Mさん、詐欺に遭っているのでは……?」という疑念がどんどん膨らみました。

私は車を停めて、店長に確認をとりました。すると、その男性はたしかにMさんのおいっ子さんで、遠方から訪ねて来ていたことがわかりました。私は、ほっと胸をなで下ろしました。また、子どもがいないMさんの生活を気にかける身寄りがいると知って、少し安堵しました。

後日配達に行くと、甥っ子さんはもう帰ったあとで、玄関や勝手口まわりの物がいくらか片付けられていました。ただ、Mさんにとって扉の鍵の開け閉めは難しいらしく、かなり時間がかかるため、お弁当配達は、いくぶん庭木が剪定(せんてい)されて通りやすくなった庭の窓からの受け渡しを続けました。

Mさんはいつも家にいて、ゆっくりと家具に手をつきながら足を運び、窓を開けてくれました。しかし、甥っ子さんの来訪から半年ほど経つころには、Mさんの足の運びはかなり衰えているように見えました。

川をのぞき込む姿に驚いて

雨が続いたある日、配達に行くと、窓の向こうにMさんの姿は見えませんでした。「Mさーん! Mさーん!」大声で呼びましたが返事はありません。胸騒ぎを覚えた私は、家の裏へまわりました。目の前には日ごろより水かさを増した川が音を立てて流れています。「まさか?」と焦りながら川岸に視線を走らせると、敷地の端っこで堤防の縁に立つMさんの姿がありました。

「危ない! Mさん!」と叫び、認知症による危険行動だ、止めなくては! と思った私は、急いで駆け寄って、Mさんの袖をつかみました。「大丈夫ですか?」と聞くと、Mさんはゆっくりと振り返り、きょろきょろとあたりを見回し、「ああ、雨が降ったから……」とつぶやきました。初めて聞いたMさんの声でした。単に川の水位が気になって見に出たようでした。

私が「日が落ちるので帰りましょう」と誘うと、Mさんは頷いたものの、結局、数分間じっと川に見入っていました。私も、日ごろ意思表示をしないMさんの起こしためずらしい行動に興味を引かれたので、そばで待ちました。そして、足が弱っているMさんを支えるようにして家に戻りました。よくあそこまでひとりで行けたなと、改めて驚きました。ただ、家に戻るとMさんはいつも通りの無表情・無言に戻っていました。

認知症が進行し、1人暮らしは困難に

川での出来事の2週間後、Mさんは1人で暮らすことが困難と判断され、施設に入ることが決まり、弁当配達は終了しました。

80代のMさんが認知症を患いながらほぼ1人で家に閉じこもり暮らしていた様子を知っていた私は、何だかやるせない気持ちになりました。もう少し、頻繁に訪れる身内がいたら……認知症になる前にもっと人と会えていたら……と。しかし、一介の弁当配達員がどうこうできることではありません。

まとめ

Mさんが施設に入ったことを知ったあと、実家で1人暮らしをしている高齢の母のことが気にかかり、電話をしました。「元気にしている?」と気遣うつもりが、「今のところは元気よ」という母の明るい声に癒やされたのは私自身でした。今は遠くに離れているけれど、なるべく母が元気なうちに頻繁に会いに行こうと思いました。

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。

著者:森原あさみ/50代女性・パート

※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年10月)
※一部、AI生成画像を使用しています

★関連記事:「行けないと言ったのに?」義母が紹介状で受診したいと…今度こそ本当ですか #頑張り過ぎない介護 272

★関連記事:「直せば済む話です」大声で責める上司が絶句!理不尽な叱責を止めた勇気ある行動【体験談】

★介護の話をまとめて読む

マンガ・体験談の最新記事