「寂しい…」1人暮らしを断念し施設に入所した認知症の母。泣きながら電話で訴えてきた理由とは【体験談】

「寂しい…」1人暮らしを断念し施設に入所した認知症の母。泣きながら電話で訴えてきた理由とは【体験談】
「寂しい…」1人暮らしを断念し施設に入所した認知症の母。泣きながら電話で訴えてきた理由とは【体験談】

昨年、軽度の認知症がわかった90歳の母が、2024年に大腿骨を骨折し、救急搬送されました。手術後リハビリするものの、歩行器がないと歩けなくなったため、ついに高齢者施設に入所することになったのですが、自由気ままな生活から一転、制限の多い生活に愚痴ばかり。ある日、珍しく母から電話がかかってきたので出てみると……。まるで子どものような母の訴えに、あぜんとしてしまったエピソードをお話しします。

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90歳でついに高齢者施設に入所

長野県で1人暮らしの母は、2023年に手首の骨折で入院中、軽い認知症と診断されましたが、退院後は自宅に戻り、デイケアサービスを受けながら1人暮らしを続けていました。しかし2024年の夏、今度は階段を踏み外して大腿骨を骨折。手術とリハビリで歩行器を使えば歩けるようになりましたが、段差のある自宅での1人暮らしは難しいだろうと、ついにおいの経営する高齢者施設に入所しました。

そこは30名ほどの老人ホームで、兄の家も近く、同じ施設には妹やいとこも入所しています。「老人ばかりだと張り合いがない」とこれまで拒んできた母ですが、見ず知らずの人ばかりではない環境にようやく入所を決意。10月半ばからお世話になっています。

入所から少しして、私は面会のために神奈川県から帰省しました。施設は平屋で各自1室ずつあてがわれ、部屋にはテレビもあり自由に過ごすことができます。食堂が皆の社交場になっているようでしたがあまり人はおらず、食事や洗濯は施設のスタッフがしてくれるため、母は少し時間を持て余しているようでした。とはいえ、手先が器用で絵心のある母は塗り絵がじょうずらしく、皆に感心されたと自信作を得意気に見せてくれました。

認知症は少しずつ進んでいるようでしたが、居場所を見つけて自分らしく過ごしている母に、私も安心して故郷を後にしました。

電話で「死にたい」と訴える母

ところが、しばらくして珍しく母から電話がありました。慌てて出てみると、その声は涙声で震えていました。

「どうしたの?」と尋ねると「寂しくて寂しくてたまらない。もう死んでしまいたい」と言うのです。「何かあったの?」と聞くと「朝起きて、ごはんを食べに食堂に行くけれど、食べ終わって部屋に戻っても楽しみがない」と訴えるのです。

私は懸命に母の機嫌をとろうとしますが、母は「寂しい、死にたい」の繰り返しです。しばらくそうして駄々をこねたあと、急におかしなことを言い始めました。

「部屋に帰ってきてアメ玉1つあれば、あぁ甘くておいしいなと思えるのに、それもない。お兄ちゃんに、お母さんがそう言ったとは言わずに、うまく伝えて」と言い始めたのです。

寂しいのは心ではなく口だった!?

私は眉をひそめました。死にたいくらい寂しいのは、気持ちの問題ではなくて “口寂しい” ってことなの? 母はお菓子の差し入れをせがんできたってこと? と……。

その施設では糖尿病や高血圧の人もいるため、食事以外の差し入れは原則禁止。どうしても渡したい場合は、施設に一旦預けて、お茶の時間に少しずつ出していると聞いていたので、私はそう母に説明しました。すると、さっきまで涙声だった母が急にすごみのある太い声で「そんなの施設に言わずに部屋に持ってくればいい!」と怒鳴って怒り始め、たしなめる私にお構いなく一方的に電話を切ったのです。

私はあぜんとしました。認知症の症状は波があり、感情の起伏も激しいことは、この1年あまりの母の様子から私も理解していました。ところがこのときの母の様子は、かなり衝撃的でした。

この日、電話で兄と話しましたが、何か急に思い立って母が兄に電話をしてくるのは日常茶飯事。仕事中でもお構いなく何度も何度もかけてくるとか。そして、言われた通り何かを持っていっても、本人は忘れていることがほとんどだそうです。「だから、お前もあまり気にしなくていい」と兄は言います。

母が高齢者施設に入所してくれたことは、介護が難しい家族にとってありがたい選択でした。老親の面倒を子が犠牲を払ってみる時代ではないと兄も親戚も言いますが、離れて暮らす私は、そうそう帰省することもできずにいることに、少なからず後ろめたさを感じています。

まとめ

母は電話で話しをするたびに「昔は長生きすれば老後を楽しめると思っていたけれど、年を取って体が弱くなれば、何もおもしろいことがない。これが老後というものか……」と口癖のように言います。そんな母を引き取ることもできず、近くで支えることもできず、何が正解かわからず、やるせなさだけが募っています。

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。

著者:あらた繭子/50代女性。1999年生まれの息子と2005年生まれの娘をもつフリーライター。長年にわたる無茶な仕事ぶりがたたり、満身創痍の身体にムチを打つ毎日。目下の癒やしは休日のガーデニングと深夜のKPOP動画視聴。
イラスト/おんたま

※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年1月)

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