認知症のおばあさまを引き取ると言ったにもかかわらず、最後まで自宅で介護ができなかったことを責めているおかあさまの姿を見ていたT.S.さん。「家族が介護施設に入居する」ことは決して「介護の放棄」ではないと話します。
「家族が介護施設に入居する」=「介護の放棄」ではない
【プロフィール】
<入居者>祖母
<施設種類>介護付き有料老人ホーム
<入居年齢>80代以上
<介護度>要介護3
<入居期間>2008年4月〜 2016年4月
<居住地域>埼玉県
<話を聞いたかた>孫
入居者との関係
父方の祖母です。
医療的ケア・疾患、症状など
医療的ケアは受けていませんでしたが認知症で、夜中に徘徊をしてしまったり、自分がどこにいるのか、目の前にいる家族が誰なのかが認識できなかったりする状態でした。また、物盗られ妄想もあり、自分の持ち物がないと同居の家族を疑うようなこともありました。
入居を決めた時期と理由
認知症の疑いで一人では生活ができなくなった祖母を引き取ったのですが、同居している私の家族との関係が悪くなり、同居は無理だと判断し、介護付き有料老人ホームに入れることになりました。
祖母は目を離すといろいろなところへ行ってしまい、かつ家に戻ってこられるかもわからない状態だったため、同居の家族(特に介護をする母)も安易に外出することが難しく、週に何回かのデイサービス、外出の際にはショートステイを利用していました。
それでも時には「行きたくない」と祖母の機嫌が悪い日もあり、同居家族の行動が制限されてしまっている状態でした。旅行に行きたい、どうしても遠出をしなくてはならないときは、その都度、祖母をどうするか考えなければならず、普段の介護に加えて精神的負担になりました。
幸い祖母にはある程度の財産があったため、介護付き有料老人ホームに入ってもらうのが一番ではないかということになりました。
施設の探し方
主に施設を探していたのは私の両親です。実際に見学してみて、入居しているお年寄りをあまり大切にしていないと感じたり、あまり清潔でない施設は除外したようです。
多少お金がかかってでも、祖母を大切に面倒を見てくれる施設、建物がきれいな施設がいい、いつでも会いに行くことができる(面会の制限がない)ということを重視して、近くの有料老人ホームに入居することになりました。
料理がおいしそうなこと、イベントや外出などが盛りだくさんであることも、このホームを選んだ理由です。
入居の手続き、ステップ
実際に家で介護生活をはじめ、負担の大きさから判断し入居相談したものの、周りからは「しっかりしている」と見えていたようで、「祖母との同居が大変だ」ということを、なかなか理解してもらえませんでした。
介護付き有料老人ホームに入るための条件として、祖母の状態を正確に把握したうえで要介護度認定を受ける必要があり、祖母の一挙手一投足を細かくメモし、ヘルパーさんに見せるようにしていました。
入居して良かったこと
家族が自由に行動できるようになったという点が大きいです。
施設に預けることへの罪悪感もあったようですが、母と祖母の関係は修復されたと思います。もともと母には情緒不安定なところもあったのですが、介護が始まって付きっ切りの状態になってからは、そのストレスから体調が不安定でした。さらに、同居していた家族が不登校になりかけたり、カウンセラーに通ったりするなど、不のサイクルができていました。
また認知症により孫である私が誰かわからない状態だったのが、施設の方が祖母に親切に接してくれたおかげで、いつも機嫌よく会ってくれるようになったのはありがたかったです。
入居して大変だったこと
大変な点というよりも、何度か骨折して近くの病院に入院して手術をするということがあったのですが、なぜ祖母が骨折してしまったのかよくわからないままでした。
幸い車いすにはなりませんでしたし、私たち家族ができなかったことをお願いしているので、無理を言ってはいけないと重々承知していますが、なぜ骨折をしてしまったのか、経緯や原因を詳しく教えてほしかったと思います。
また家族の問題ではあるのですが、母が姑である祖母を引き取ると言ったにもかかわらず最後まで自宅で介護ができなかったということで、自分を責めているようでした。
母は、祖母が入居してしばらくすると、施設でボランティアを始めたのですが、私たち子ども(祖母にとっては孫)の都合を考えずに「ボランティアを手伝ってほしい」と言うこともあり、度々ケンカになってしまいました。
とはいえ祖母が亡くなった今は、あの時施設でボランティアをしたことで、祖母との思い出作りができたのかもしれないと、思っています。
入居を検討しているかたへのアドバイス
世間では自宅で家族が介護をするのが当たり前、施設に入居をさせるのは介護を放棄しているなどという偏見が一定数存在していると思います。
実際に私の母も、祖母を引き取ったにも関わらず、自宅で介護ができなかったことで自分を責めることがありました。
しかし実際に祖母と同居してみて、「介護が必要だと思われる人を施設にお願いする」ことと「投げ出した」ということは同義ではないと思っています。家族とはいえ『介護について何の知識や経験がない人』と、家族ではないにしても『介護について経験豊富な人』に見てもらうのとでは、介護される側にとってはどちらが良いのでしょうか。
確かに施設によっては身体の拘束をしたり、お年寄りをまともに扱わなかったりする施設もあると思いますから、きちんと下調べをすることは大切ですし、入居後も、週に1度は面会に行ったほうがいいと思います。実際に面会に行くことで施設でどう過ごしているのかもわかりますから。
「家族が介護施設に入居する」=「介護の放棄」と考えるのではなく、介護が必要な家族とご自分がより良く生活していくための方法だと考えることが大切だと思います。
※入居時点の情報であり、あくまでも個人の感想です。
★有料老人ホームについて詳しく知りたいかたは、こちらをご覧ください。