こんにちは。
千葉老人ホーム・介護施設紹介所リーブス所長の石田です。
前回に続き、実際に私が過去にお受けした老人ホームの相談事例を紹介します。
前回は老人ホーム入居後の費用に関するトラブル事例でしたが、今回は自宅近くの女性にお金をつぎ込んでしまっていたお父様が入居される老人ホーム探しをお手伝いした事例になります。高齢になって判断能力が衰えると思わぬお金のトラブルに巻き込まれることがあるという典型的なケースです。
ぜひ参考になさってください。
1.老々詐欺!? 詐欺を防止するためにあえて遠方のホームに入居させたい
1-1 入居対象者の状況
<性別>男性
<年齢>92歳
<介護保険>要支援2
<認知症>なし。年相応の物忘れ程度
<必要な医療行為>なし
<現在の状況>急性期病院に入院中
1-2 相談内容
急性期病院に入院されている対象者(父)の娘様から相談を受けました。
お父様は10年程前に奥様がお亡くなりになってからは、ご自宅で一人暮らしをされていらっしゃいました。
今回、真夏の8月中旬にクーラーも使わず自宅で過ごしていたため、熱中症をおこし病院に入院されました。
入院後、体調は回復しADL(日常的な生活動作)も自立しており、特に認知症状などもないのですが、病院のソーシャルワーカーがお父様の自宅に伺い家屋調査を実施したところ、ねずみの死体が転がっていたり、食べた物が散乱していたり等、ごみ屋敷状態でした。
年齢も90歳を超え高齢であるため、一人での暮らしは危ないと判断し、病院職員と娘様が相談のうえ、退院後は老人ホームを検討することになりました。
お父様のお身体の状態的には、どの老人ホームでも受け入れを断られるような要素はなかったのですが、一つ問題がありました。
お父様自身は自分が住んでいた自宅近くの老人ホームを希望されていたのですが、次女様はお父様の自宅からなるべく遠方の老人ホームを希望されていました。
次女様になぜ遠方の老人ホームを希望するのか尋ねたところ、お父様は数年前から自宅のある同じ市内に住んでいる70歳代の女性にお金をつぎ込んでいるとのことでした。
相手の女性には、夫も子供もいるにもかかわらず、旅行代や飲食代などの名目でお父様はその女性にトータル1000万円以上ものお金をあげてしまっているそうです。
次女様がこれはおかしいと警察にも相談されましたが、お父様自身がだまされている認識がなく被害届を出さないので、警察も事件として取り合ってはくれません。
娘様が何度言ってもお父様自身はだまされているという自覚がなく、娘様の目を盗んで今もその女性に連絡をしているため、その女性ともう会えないように、なるべく自宅から離れた遠方の老人ホームに入居させたいという希望でした。
お父様自身はその女性に会いたいので、自宅近くの老人ホームを希望しているところ、それに反して自宅から離れた遠方の老人ホームの入所をお父様にどうやって納得してもらうかが問題でした。
1-3 私の対応
娘様から相談をお受けした私は、まず、入院中の病院の担当ソーシャルワーカーとも情報を共有し、お父様に対しひと芝居打つことにしました。
まず、お父様との面談をセッティングし、希望通りご自宅近くのホームを数軒ご提案しました。
お父様はやはりご自宅近くの老人ホームを希望しており、「ここなら入りたい」とご提案したホームのなかの1カ所をすぐに気に入ってくれました。
次に、数日後お父様との再面談をセッティングし、ソーシャルワーカー、娘様同席のもと、『お父様が気に入られたホームは、残念ながら今は空室がなくすぐには入所できません』とお伝えしました。
ソーシャルワーカーからも、『退院日の期限が迫っているので、こちらのホームではなく他のホームを検討してください』とお父様に伝えてもらいました。
そのうえで、お父様の希望とは違ってしまうが、「自宅近くではない遠方の老人ホームではあるが空きがあり退院期日までには入所ができるホーム」をご提案しました。
また、どうしてもご自宅近くの老人ホームが良い場合、『いったん遠方の老人ホームに入所し、空きが出しだいご自宅近くの老人ホームに移ることもできる』と、私と娘様からもお話し、お父様は渋々ながらも『それならいいか……』と、どうにか納得してくれました。
この一連の流れには一つ嘘があって、お父様が希望されたご自宅近くの老人ホームには実際は空きがあり、本当は退院期日にも間に合うように入所が可能でした。
事前に、私と娘様、ソーシャルワーカーの3人で打ち合わせしており、お父様に『自宅近くの老人ホームには入所させられない』とストレートに言っても聞き入れてくれないことはわかっていました。
かといって無理やり遠方の老人ホームに入所させた場合、最悪、お父様が納得せず暴れるような可能性もあったので、自宅近くの老人ホームに入所できる望みも残した提案をするようにしたのです。
入所後、お父様はスタッフや他の入所者とも打ち解け、話相手もできたためか、今はそのホームを気に入られて、自宅近くの老人ホームに移りたいと言うことなく過ごされています。
1-4 今回の事例のポイント
・高齢者の一人暮らしの場合、身体が元気で認知症がなくても、判断能力の低下があるので、詐欺などさまざまなトラブルにあう危険性がある。
・老人ホームの入所を本人に納得してもらうためには、家族だけではなく、周りの第三者に協力してもらうと良い。
・老人ホームの入所をどうしても本人が納得してくれない場合は、ときには嘘も必要。
2.まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はかなり特殊なケースでしたが参考になりましたか。
今回の事例の補足となりますが、老人ホーム入所後に会わせたくない面会者がいるというケースは他にもあります。変な宗教の勧誘、DVをしていた家族などのケースです。
事情を老人ホーム側に伝えると、特定の面会者とは合わせないようにしてくれる場合もありますので相談してみると良いかもしれません。
今回の事例では、自宅近くのホームに入所するとお父様自身がその女性に会いに行ってしまう可能性もあったので、念には念を入れて遠方の老人ホームに入所してもらいました。加えて老人ホーム側に事情を伝え、詐欺をやっているだろうその女性が万が一ホームに来た場合は面会させないようお願いをしていました。
また、今回の事例ほど特殊ではなくとも、本人が老人ホーム入所を納得してくれないケースはよくあります。
「根気強く本人に家族が説明し納得してもらいましょう」とか、「本人がなぜ老人ホームの入所に抵抗があるのがよく聞いてみましょう」等、よく言われていますが、それはあくまで基本で、実際には必ずしもホーム入所を本人に納得してもらえるわけではありません。
その場合は、『あくまで一時的に入所するだけだから~』『ドクターが自宅じゃダメと言ってるから~』など、多少の嘘を付いてでも老人ホームの入所を本人に納得してもらうことも必要かもしれませんね。
次回も、今回とは違うケースの実際の老人ホームの相談事例について解説する予定です。
老人ホームの選び方(介護カレンダー)
記事提供:石田治男
千葉老人ホーム・介護施設紹介所リーブス 所長
入居相談員 / 老人ホームアドバイザー