ファイナンシャルプランナーが詳しく説明「施設入居に必要なお金の知識〈前編〉」

ファイナンシャルプランナーが詳しく説明「施設入居に必要なお金の知識〈前編〉」
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千葉老人ホーム・介護施設紹介所リーブス所長、老人ホームアドバイザーである石田治男さんが「老人ホーム」を探す際の考え方や欠かせない知識、実践的なテクニックを教えてくれました。また、家族や親戚などを老人介護施設へ入居させた経験がある方の体験談も紹介します。

介護施設探しの体験談」を読んでいると、ご家族の施設入居にあたって「お金」の問題は避けて通れないことがわかります。
そこで、2回にわたって、ファイナンシャルプランナー畠中雅子さんに「施設入居に必要なお金の知識」について執筆いただきます。畠中さんはメディアでの執筆やセミナー講演、相談、また高齢者施設への住み替え資金アドバイスをおこなう「高齢期のお金を考える会」を主宰されるなど、多岐にわたって活動されています。

住み替えを急ぐと、高いか、評価の低い施設に行きつく現実がある

私はファイナンシャルプランナーという、お金にまつわる仕事をしています。今から20年ほどさかのぼった2002年に、初めて高齢者施設の見学をする機会を得ました。それから20年の月日の中で、高齢者施設の見学回数は300回を超えました。見学を重ねるにつれ、住み替えにまつわる資金相談だけでなく、「住み替え先」のご相談を受ける機会も増えています。

ご相談を受ける中で気になっているのは、住み替えが必要になるまで、施設見学をしたことのない方がほとんどだという現実です。見学の経験がないまま、住み替えを急ぐ方も少なくありません。ですが、急いで探す場合、「リーズナブルで、評判の良い施設」に住み替えるのは、相当困難です。住み替えたいと思えるような評判の良い施設は、待機者が多くて入居までに時間がかかったり、広告宣伝費を使う必要がないため、簡単に見つけられないからです。

そのような現実を受けて、最近では「いくらでもお金を出せる方は、住み替えが必要になるまで、見学しなくても大丈夫です。施設選びについては、お金で多くの課題は解決できるからです。いっぽう、できるだけ費用を抑えつつ、評判の良い施設に住み替えたいなら、事前の努力が欠かせません。リーズナブルで評判の良い施設は、広告宣伝費を使わなくても満室運営ができるので、利用者側が頑張って調べないと、たどり着くのが難しいからです」と、セミナーなどでお伝えするようにしています。

そこで今回は、多くの施設を見学してきた経験を踏まえて、高齢者施設への住み替えにまつわるお金の話をします。

特養は要介護3になるまで申し込みができない

評判の良い施設にたどり着くためには、その前提として高齢者施設の種類についての知識を得る必要があります。まずは、高齢者施設の種類を表にまとめてみました。

高齢者施設の種類と費用

表1は、高齢者施設の例になりますが、皆さんが名前をよく聞くのは、特別養護老人ホーム(以下.特養)ではないでしょうか。特養は介護が受けられる公的施設の代表的な存在で、要介護3以上から申し込める施設です。

特養と言えば、待機者の多い施設として知られていますが、要介護3以上でないと申し込めないように制度が変わってからは、待機者の数が減っています。とはいえ、要介護3の認定を受けるまでは、特養の申し込みができないことは、しっかり認識しておく必要があります。施設で介護を受けたい場合、要介護2までは、特養以外の場所で介護を受ける必要があるからです。

加えて特養には、2015年に資産基準が導入され、さらに2021年8月に資産基準が厳しくなります。7月までは夫婦で2000万円超、単身で1000万円超の資産を持っていると、補足給付という軽減措置が受けられないのですが、8月以降は夫婦で1500~1650万円超、単身者で500~650万円超の資産を持っていると、軽減措置が受けられません。資産基準に幅があるのは、年金などの所得によって適用額が変わるためです。

「特養の料金例」

特養の料金は、所得によって4段階に分かれています。表2はある特養の料金表ですが、補足給付が受けられない人は、第4段階の一番高い料金を支払います。たとえば個室(ユニット)タイプの特養に入所した場合、公的介護保険の1割負担の方で15~16万円程度、2割の方では18~20万円程度、3割の方では22~24万円もかかります。このほかに、個人的な費用(医療費や携帯電話代など)も必要です。「個室だと高いから、多床室に入所したい」と考えても、多床室は満室という特養がたくさんあります。たとえば生活保護を受けている人はユニット型に入居できないため、多床室には生活保護を受けている方が多数入所している特養もあります。費用負担の軽さから、多床室を希望しても、ユニット型よりも待機期間が長くなる可能性があることは知っておくべきでしょう。また新設される特養は、ユニットタイプが優先されている現実を踏まえますと、今後はよりユニット型のベット数が増えていくと思われます。

特別養護老人ホーム(特養)とは?(介護カレンダー)

費用負担を抑えた住み替えを臨むなら介護型ケアハウスを探す

介護度が要介護3以上になっていないために特養に申し込めない場合や資産基準の関係で、特養以外も検討したい場合は、介護型ケアハウスを探す方法もあります。介護型ケアハウスは、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているので、介護度ごとに決められた一律の上乗せ介護費用を支払えば、特養や介護付有料老人ホームのように、24時間365日の介護が受けられます。そして介護型ケアハウスには、資産基準がありません。所得で月額費用が決まるので、資産はたくさん持っているけれど、所得は遺族年金だけ、あるいは国民年金だけといった方には、特養よりも費用負担が軽くなる可能性もあります。

介護型ケアハウスは要介護1から申し込みができますので、特養のように要介護3になるまで待機する必要もありません。難しいのは、介護型ケアハウスの数は非常に少ないこと。自立している人が申し込めるケアハウスが4施設あるとして、介護型ケアハウスは1施設くらいしかありません。ちなみに、ケアハウスと介護型ケアハウスをそれぞれ単独で運営している事業者と、ケアハウスと介護型ケアハウスの両方を運営している事業者があります。

介護型ケアハウスもケアハウスと同様、管理費に国の助成があるため、所得の少ない人ほど、月々の負担は軽くすみます。ケアハウスであれば月々7万円程度から、介護型ケアハウスであれば月々12万円くらいから探せます。また入居時に支払う保証金も、数十万円から高くても500万円程度など、介護付有料老人ホームの入居一時金に比べると、負担は抑えられています。

前述の通り、要介護3以上でないと特養に申請ができませんので、施設での介護を希望するなら、介護型ケアハウスか介護付有料老人ホームを検討するのが順当ではないでしょうか。介護付有料老人ホームについては、後編でご紹介します。

軽費老人ホームとは?(介護カレンダー)

畠中雅子(はたなかまさこ)
ファイナンシャルプランナーとして新聞・雑誌を始め、WEBなどに多数の連載やレギュラーの執筆をもつ。
さらに、セミナー講師、講演などの依頼も多く、全国を飛び回る。
「住宅取得のためのアドバイス」「生活設計アドバイス」「老後資金作り」などのテーマを得意としている。
高齢者施設の見学回数は、300回を超えている。
著書は「ラクに楽しくお金を貯めている私の『貯金簿』」(ぱる出版)、「貯金1000万円以下でも老後は暮らせる!」(すばる舎)、「病気にかかるお金がわかる本」(黒田尚子氏との共著・主婦の友社)「ひきこもりのライフプラン」(斎藤環氏との共著・岩波書店)など、70冊を超える。


ブログ:https://miniatureworld.jp

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