前回は企業が運営している「民間施設」について説明しました。
ひとりでも困らない!「民間施設」の種類と特徴【老人ホームの選び方 vol6】
今回は入所後に一番トラブルの原因になる「老人ホームの費用」について詳しく解説します。
前回までで、「公的施設」と「民間施設」について解説しましたが、「公的施設」の場合は、元々「民間施設」と比べて費用が安く設定されています。また、入居者の収入に応じて費用の軽減制度もありますので、費用のトラブルが起こることはあまりありません。
費用でトラブルが多くなるのは、やはり企業が自由に料金を決められる「民間施設」の方になりますので、今回は「民間施設」の費用について解説します。「こんなに費用がかかるとは思っていなかった…」などと、後で後悔しないようにしっかり覚えましょう。
老人ホームに支払うお金には何があるの? ~介護1年生の編集者が調べてみたvol5~
1.入居時にかかる費用
「公的施設」の場合は入居時にかかる費用はありませんが、「民間施設」の場合、入居一時金や敷金がかかるケースがあります。
■入居一時金
「入居一時金」を簡単に言うと、家賃の全部もしくは一部の前払い金のことです。平均余命などを参考に入居者が住み続けるであろう「想定居住期間」を設定し、その期間の家賃を前払いするというシステムです。
入居一時金は、入居時にその一部が初期償却され 、残りの金額を償却年数で毎月一定額償却されていくのが一般的です。
入居一時金は償却期間の途中で退去することになった場合、償却された分は戻ってきませんが、未償却の分の入居一時金は返還されます。
償却期間は5年程度が一般的ですが、自立から入れる健康型の有料老人ホームなどでは、償却期間が10年や20年といった長いホームもありますし、逆に1年や2年といった短い償却期間のホームもあります。初期償却は、10~30パーセント程度に設定しているホームが多いです。
例えば、入居一時金が300万円で初期償却が30パーセント、償却期間が5年(60ヶ月)のホームの場合、入居した時点で90万円は戻ってこないお金(初期償却)となり、残りの210万円を毎月35,000円ずつ60ヶ月で償却していくことになります。
昨今は、家賃の全額を前払い金として払うプラン、家賃の一部を前払い金で払うプラン、前払い金は0円で毎月家賃を全額払うプランなど、複数のプランの中から入居者が選択できるようにしているホームが多くなっています。
多くのホームでは償却期間が過ぎて、預けた前払い金が0円になっても追加の入居金はかからず、毎月払う家賃も据え置きのまま入居を継続できるので、償却期間以上に長く入居する方は、毎月家賃を全額払う入居金0円プランよりも、入居期間中に払う総額の費用は安くなります。
逆に、償却期間中に退去した場合は、入居時に償却される初期償却分が、毎月家賃を全額払う入居金0円プランよりも損することになるので、償却期間よりも長く入居することになりそうかどうかよく検討して、プランを選ぶようにしましょう。
なお、よくあるご相談で、「入居して数日過ごしてみないとホームに長く入居するかわからないので入居一時金を払うのは……」と悩まれる方がいらっしゃいます。
入居一時金にはクーリングオフが適用されます。契約から90日以内に契約を解除した場合には一時金は全額返還されますので、覚えておくと良いでしょう。
■敷金
敷金もしくはホームによっては保証金と言うところもありますが、賃貸の不動産でいう敷金と意味合いは同じです。
入居期間中に費用の滞納があった場合の支払いや、退去時に居室の原状回復費として、先に預けておくお金です。費用の滞納等がなく、退去時に居室に目立った損傷がなければ、原状回復費を引いて残った分の敷金は戻ってくることが一般的です。
なお、居室を退去する際にどこまで原状回復させるのか、負担する費用はホームによって違いますのでしっかり確認しましょう。
2. 毎月かかる費用
よくあるトラブルに、ホームに入居してみたら、思っていた以上に毎月の費用が多くて支払いが困難になるケースがあります。
毎月かかる費用は、パンフレットやホームページなどに記載されている「月額利用料」だけではなく、入居者の身体の状態や趣向によってかかるその他の費用も含めて計算しましょう。
■月額利用料
月額利用料は身体の状態に関係なく入居者が一律にホームに支払う費用で、ホームで生活をするためには、後で述べるその他の費用もかかります。
通常、月額利用料に含まれるのは、家賃・管理費・食費の3つです。家賃はそのホームのある地域の物価や居室のグレードなどから決まります。
管理費は居室や共有部分の維持管理費用です。管理費の中に水光熱費を含んでいるホームと、使った分の実費が別途かかるホームがあります。
食費には、食材費、厨房維持管理費が含まれています。1日3食30日分を食べた場合の費用で月額利用料に記載しているホームが一般的です。但し、サービス付き高齢者向け住宅は、この食費を月額利用料に含めず記載していることが多いので、食費を含めた月額利用料はいくらになるのかしっかり確認しましょう。
■介護保険自己負担金
介護サービスを受けるのに必要な自己負担金です。現行の制度では介護保険が適用されるため、所得に応じて1割から3割の一部負担となります。
介護付き有料老人ホームやグループホームでは要介護度に応じて毎月定額の負担金になります。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、介護サービスを利用した分の負担金が必要になります。
よくトラブルになりやすく要注意なのは、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、介護量が多いと、介護保険の範囲では足りず、10割負担の実費が請求される場合があることです。
その場合、介護に要する費用だけで月に10万円以上かかる場合もありますので、介護量が多いもしくは先々多くなっても、介護保険の自己負担が一部のみで済むのか必ず確認しましょう。
また、ホームに洗濯をお願いした場合の洗濯代を介護保険のサービスとして含めているホームと、介護保険外のサービスとして、数千円程度別途かかるホームに分かれるので、注意しましょう。
■医療費
訪問診療代やお薬代、入院費用など。また、ホームによっては入居者に必要な医療行為に対して別途費用がかかります。例えば、インスリン注射1回○○円、胃ろう管理費用月○○円など。医療行為が必要な方は別途費用がかかるかどうか確認しましょう。
■消耗品費や日常生活費
歯ブラシや石鹸・ティッシュペーパー・おむつ、コロナ禍の今ではマスク・消毒液といった消耗品が、レクリエーション参加費、通院にかかる交通費、理美容代、新聞代、通信費などの日常生活費がかかります。
サービス付き高齢者向け住宅に支払う『費用』には何があるの? 〜介護1年生の編集者が調べてみたvol3〜
5. まとめ
入居時にかかる費用に関しては、入居一時金にしても敷金にしても、退去した場合いくらお金が戻ってくるのか、どういう場合は戻ってこないのかをしっかり確認しましょう。
毎月かかる費用に関しては、月額利用料に含まれているものは何か、月額利用料以外にその他にかかる費用はいくらかを明確にし、月額利用料とその他にかかる費用を足した総額はいくらになるのかを把握することによって、トラブルを防ぐことができます。
次回は、「老人ホーム見学のポイント」について解説する予定です。
記事提供:石田治男
千葉老人ホーム・介護施設紹介所リーブス 所長
入居相談員 / 老人ホームアドバイザー