ファイナンシャルプランナーが詳しく説明「施設入居に必要なお金の知識〈後編〉」

介護施設探しの体験談」を読んでいると、ご家族の施設入居にあたって「お金」の問題は避けて通れないことがわかります。
そこで、2回にわたって、ファイナンシャルプランナー畠中雅子さんに「施設入居に必要なお金の知識」について執筆いただきました。畠中さんはメディアでの執筆やセミナー講演、相談、また高齢者施設への住み替え資金アドバイスをおこなう「高齢期のお金を考える会」を主宰されるなど、多岐にわたって活動されています。

ファイナンシャルプランナーが詳しく説明「施設入居に必要なお金の知識<前編>」

前編では、特養や介護型ケアハウスについてご紹介しました。続く後編では、介護付有料老人ホームを中心に話をしていただきます。

介護付有料老人ホームは上乗せ介護費を払えば
24時間365日の介護が受けられる

 介護付有料老人ホームは、自治体から「特定施設入居者生活介護」(以下.特定施設)の指定を受けている施設です。特定施設の指定を受けている有料老人ホームは、ホームが提示する介護度ごとに決められた上乗せ介護費(表1参照)を支払うと、24時間365日の介護が受けられます。

 仮に、介護に手のかかる人がいて、その人にかかる介護時間が多くなったとしても、上乗せ介護費を超えた介護費用の徴収はありません。ただし、公的介護保険では週2回の利用が基本となっている入浴を、週に3回以上したいなど、個人の要望で受けるサービスは、自己負担が発生するのが一般的です。また、介護保険のサービス外となる病院への付き添いなども、費用が発生します。

上乗せ介護費用の例

区分月額利用者負担(1割の場合)
要介護117万3000円1万7300円
要介護219万4000円1万9400円
要介護321万6000円2万1600円
要介護423万8000円2万3800円
要介護526万1000円2万6100円

住宅型有料老人ホームでは重介護になると負担も増えがち

 個人的な費用が発生するとしても、特定施設の指定を受けていれば、費用負担はある程度固定できます。特定施設か否かは「介護付」という表記があるかないかでわかります。「介護付有料老人ホーム」と表記されていれば特定施設で、「介護付」の表記がなければ、特定施設ではありません。

 特定施設の認可を持たない有料老人ホームは、「住宅型有料老人ホーム」に分類されます。住宅型有料老人ホームでは、原則として外部の介護事業者と契約して、介護を受けます。外部といっても、施設内に介護事業者が事業所を開設していたり、各階に介護ステーションが設けられている施設はたくさんあります。見学で館内を歩いているだけではわかりにくい面もありますが、住宅型有料老人ホームは職員が介護を担当する介護付有料老人ホームとは異なり、在宅介護と似たような仕組みになることを理解しておきましょう。公的介護保険のサービス給付額の上限を超えると、それ以降は10割負担になるのが一般的です。

 在宅介護と同じ仕組みになると、介護度が重くなって、介護サービスを受ける時間が増えていくと、自己負担も増えていきます。介護付有料老人ホームのほうに、24時間365日の介護を一律料金では受けられないからです。

 そのように考えますと、「介護を受けることが目的での住み替え」の場合は、特定施設の指定を持っている介護付有料老人ホームを優先して探すのが無難だと思います。

余談ですが、介護が必要な高齢者が住み替えてくるのを抑えるために、自治体は特定施設の指定を抑えている現実があります。たとえばある自治体では、10施設からの特定施設の申請に対して、1施設しか指定を下ろさなかったという話もあるくらいです。ひとくちに有料老人ホームといっても、特定施設か否かでは、費用の掛かり方が異なることを理解しておく必要があります。

若ければ全額前払い
高齢になるほど少なく払う

 介護付有料老人ホームを選ぶ際、悩ましいのが入居一時金の支払い方ではないでしょうか。現在では、入居一時金は「0」,「一部前払い」、「全額前払い」の3つのパターンから選択できる施設が多くなっています。入居一時金は家賃の前払いに当たるお金ですから、0のプランを選択すると、入居時の負担は楽な反面、月々の負担は多くなります。

 入居一時金は、年齢ごとに設定されているのが一般的です。年齢が上がるほど、つまり想定入居年数が短くなるほど、入居一時金は安くなる仕組みになっています。そのため90歳など、年齢が高くなってから入居する方は、入居一時金の支払いは抑えたほうが無難。いっぽうで70歳のように、比較的若い年齢で入居を希望する場合は、全額前払いを選択したほうが、有利になる可能性があります。

 その理由として入居一時金は、5年、7年、10年などホームごとに決めた「償却期間」を過ぎると、退所しても返金はない代わりに、長生きしても、追加で家賃を支払う必要はありません。たとえば70歳の人が、償却期間10年のホームに8月に入居したとします。この場合、80歳の8月を迎えた時点以降は、退去しても入居一時金の返金はなくなりますが、何歳まで長生きしても、家賃分を追加で支払う必要はないのです。

 ただし、ここでご説明した入居一時金の支払い方は、「終の棲家」にできるような、有料老人ホームに住み替えられた場合の話です。入居はしたものの、施設型の対応に疑問があるという場合は、90日間はクーリングオフが利用できます。90日以内の退去の場合、部屋のクリーニングなどにかかる実費の負担だけで済み、支払った入居一時金のほとんどが返金されます。

 クーリングオフの対象期間であれば、実質負担が少なくなるとはいえ、退去すれば、再住み替え先を探さなければならなくなります。このパターンは時間が限られるので、評判の良い施設への住み替えはより難しくなります。そのような目に遭わないためにも、初めての住み替えで終の棲家にできるような有料老人ホームを選ぶことが、大切なのです。前編の冒頭に記したように、介護認定を受ける前に、いくつかのホームを見学しておくことはより重要だと思います。

医療行為については
入居前に詳しく聞くのが重要

 最後に、もうひとつ。住み替えに当たって重要なポイントをお話しします。それは、医療行為がどの程度できるかです。

 特養はもちろん、介護型ケアハウスや介護付有料老人ホームでも、介護については他人に迷惑をかける行為を繰り返さない限り、退去させられる心配はありません。ですが、医療対応については、施設ごとにできることがまちまちです。そのため施設内で対応ができない医療行為が日常的に必要になったら、退去させられる可能性があります。また特養では、入院が長引いた場合は退去が必要になります。何か月の入院で退去になるかは、重要事項説明書に記載されています。

 ちなみに私は、医療行為が必要になっている方が介護付有料老人ホームに住み替えたいという場合は、医療法人が経営している施設を探すようにしています。ご本人は「終の棲家」のつもりで住み替えようとしているわけですから、医療行為によって退去を促されないで済む施設をご紹介するように心がけています。

 大手の事業者では、医療依存度の高い方向けにメディカルホームを設置している会社がいくつもありますが、メディカルホームは医療行為にかなり対応してくれる反面、費用はひと月40万円を超える施設が多くなっています。介護だけを受けていた時には、20万円台前半の負担で済んでいたのが、いきなり10万円以上、負担が増えるケースが多いのです。実際に、メディカルホームに住み替えた知人が何人かいますが、資金的に厳しくなって、お子さんたちからの仕送りを加えて、何とかホームの費用を支払っている状態です。

 どのような病気になるかを自分では選べませんが、医療行為については、「何ができて、何ができないのか」を必ず確認してください。たとえば、夜間にもインスリン注射が必要な方がいるとして、認知症のために自己注射ができない場合は、夜間にも看護師が常駐している施設を探す必要があるなど、医療行為によってはホームの選び方が変わってくるからです。

 私が見学した有料老人ホームの中には、数は多くないものの、医療法人が経営していることから、医療行為は隣接した病院で対応してくれる上に、都市圏でも月額費用が20万円台前半で済む施設もあります。医療行為による退去は現実的に少なくありませんし、再住み替えで費用負担が増えると、自宅に戻らなければならない可能性もあります。住み替えを検討する際は、医療対応について、しつこいぐらい、慎重に確認してほしいと願っています。

畠中雅子(はたなかまさこ)
ファイナンシャルプランナーとして新聞・雑誌を始め、WEBなどに多数の連載やレギュラーの執筆をもつ。
さらに、セミナー講師、講演などの依頼も多く、全国を飛び回る。
「住宅取得のためのアドバイス」「生活設計アドバイス」「老後資金作り」などのテーマを得意としている。
高齢者施設の見学回数は、300回を超えている。
著書は「ラクに楽しくお金を貯めている私の『貯金簿』」(ぱる出版)、「貯金1000万円以下でも老後は暮らせる!」(すばる舎)、「病気にかかるお金がわかる本」(黒田尚子氏との共著・主婦の友社)「ひきこもりのライフプラン」(斎藤環氏との共著・岩波書店)など、70冊を超える。

ブログ:https://miniatureworld.jp

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