<FPと考える>将来のため信頼できる人に支援を託す「任意後見制度」

<FPと考える>将来のため信頼できる人に支援を託す「任意後見制度」

こんにちは。ファイナンシャルプランナーの前佛(ぜんぶつ)です。私は家計改善のアドバイスのほか、整理収納アドバイザー1級を取得し、暮らし全体の整え方もお伝えしています。介護カレンダーでは親の介護をはじめ、将来介護が必要になったときに役に立つ情報をお伝えしながら、介護にまつわる大切なことを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

もし自分が認知症になって判断能力が不十分になったとき、財産管理や契約などが対応できなくなることを考えると心配になりませんか?そんなときに備えて、自分が元気なうちに、あらかじめ財産管理やあらゆる契約などを代行してもらう人を決めておくことができます。その制度が任意後見制度です。今回は、任意後見制度の内容や法定後見制度との違い、利用する際の手続きについて解説します。

■任意後見制度とはどんな制度?

認知症などで判断能力が低下すると財産の管理が難しくなったり、不利益な契約をさせられたりして生活に支障が出てしまい、安心して生活できなくなってしまいます。
そこで、財産管理など託したい内容や託す人をあらかじめ決めておき、判断能力が不十分になったときに代行してもらう制度を「任意後見制度」といいます。

任意後見制度では、まだ判断能力があるうちに自分で信頼できる人(任意後見受任者)を選び、預貯金や不動産などの財産管理、介護サービスや施設入所などの契約代行など、自分が託したいことを公正証書によって任意後見契約を結んでおきます。任意後見契約を結ぶ相手は子どもや親族などから選ぶことが多いですが、最寄りの社会福祉協議会やNPO法人などに託すことも可能です。

認知症を発症するなどして判断能力が不十分になったとき、任意後見受任者は速やかに家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。任意後見監督人が選任された時点で、任意後見受任者は任意後見人として支援を始めます。任意後見監督人は弁護士や司法書士などの専門家から選ばれ、任意後見人が適正に役割を果たしているか監督します。


■任意後見制度と法定後見制度の違い

認知症や精神障害などで判断能力が不十分になったときに財産管理などの支援を行う制度を「成年後見制度」といいます。「任意後見制度」は成年後見制度の1つです。この他、成年後見制度には「法定後見制度」という支援制度もあります。

法定後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分になったとき、家庭裁判所が成年後見人を選任して法律的に保護する制度のことです。この場合、本人の意思は反映されません。
その点、任意後見制度は判断能力があるうちに、本人の意思で信頼できる人を任意後見人として決めることができます。

また、法定後見制度で専任された成年後見人には「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があり、それぞれの類型ごとに取消権、同意権、代理権(※)が認められています。ところが任意後見制度で認められているのは、任意後見契約で決めておいた内容に対する「代理権」のみとなります。

このように任意後見制度と法定後見制度には、本人の意思が反映されるかどうかという点と、後見人に認められる権限に違いがあるのです。
(※)
取消権:契約などの法律行為を取り消すことができる権限
同意権:他人の行為に対して肯定の意思表示をすることができる権限
代理権:契約などの法律行為を本人に代わって行うことができる権限

■任意後見制度を利用する際の手続き

任意後見制度を利用するときの手続きは以下のようになります。
(1)支援してくれる人を決めて契約する内容を決める
(2)公正証書で任意後見契約を結ぶ
(3)本人の判断能力の低下が見られたら任意後見監督人の選任を申し立てる
(4)任意後見監督人が選任されたら任意後見人による支援が開始する

(1)支援してくれる人を決めて契約する内容を決める
子どもや親族など信頼できる人に任意後見人を依頼して(任意後見受任者を決める)、支援してほしい内容を決めます。もし身近に依頼できる人がいない、あるいはどのように契約していいのかわからないときは、最寄りの社会福祉協議会に相談するとよいでしょう。

(2)公正証書で任意後見契約を結ぶ
任意後見契約では、公証役場にて公正証書を作成して契約を結びます。

なお、公正証書の作成には以下の手数料がかかります。
 ・基本手数料:11,000円
 ・登記嘱託手数料:1,400円
 ・収入印紙代:2,600円
※その他費用がかかる場合があります。


(3)本人の判断能力の低下が見られたら任意後見監督人の選任を申し立てる
医師から認知症と診断されるなど、判断能力が不十分になったときは、速やかに住所地を管轄する家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てます。その際、本人の戸籍謄本や任意後見契約公正証書の写し、財産目録などの必要書類を揃える必要があります。
また、申立てには下記の手数料がかかります。
 ・申立手数料:収入印紙800円分
 ・登記手数料:収入印紙1,400円分
 ・連絡用の郵便切手代
手続きについて詳しくは、裁判所のサイト「任意後見監督人選任」のページに掲載されているので確認してください。


(4)任意後見監督人が選任されたら任意後見人による支援が開始する
家庭裁判所により任意後見監督人が選任されたら、任意後見受任者は任意後見人となり、支援が始まります。任意後見契約を結んだ内容に沿って事務などの代行を行います。同時に、任意後見監督人による監督も始まります。また、任意後見監督人には本人の財産から家庭裁判所が決めた報酬が支払われます。任意後見人も、本人から任意後見契約で決めた報酬を受け取ることができます。

任意後見契約は、本人の死亡あるいは任意後見人の死亡や認知症などにより判断能力が低下したときに終了となります。

■まとめ

任意後見制度とは、あらかじめ任意後見人になる人を決め、自分が認知症になるなど判断能力が不十分になったときに財産管理などを支援、代行してもらう制度です。支援してもらいたい人と公正証書による任意後見契約を結びます。自分が信頼できる人を選ぶことができ、将来支援してほしいことを自分で決めることができるので安心です。もし任意後見制度の利用を考えているなら、最寄りの社会福祉協議会や成年後見センターなどに相談してみてはいかがでしょうか。

<プロフィール>前佛 朋子(ぜんぶつ ともこ)
ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)/ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 / 整理収納アドバイザー1級 / 自分史活用アドバイザー
『安心と心のゆとりのある暮らしができる人を増やしていく』という理念のもと、1人でも多くの人に安心できる暮らしと心の余裕を手に入れていただこうと、家計見直しやライフプランなどの相談業務を行う。ライフイベントに合わせて貯蓄や用途を分類するお金の整理を得意とする。また、離れて暮らす母の介護に関わった経験を活かし、遠距離介護などの相談も受ける。保険や金融商品を売らないファイナンシャルプランナーとして活動中。
ホームページ:家計コンサルティングZEN

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