「介護施設選びの体験談」を読んでいると、それぞれの家族にそれぞれの苦悩や葛藤を感じます。その多くは、「介護は家族がするもの」「できるなら自分で介護をしたかった」という思いから、ご家族を施設に入れたことを後悔したり、ご自分を責める気持ちが根底になっているようです。親はいつまでも元気なものと思っていても(実際にはそう思っていたい)、年齢は誰もが公平に重ねるもの、覚悟ができないうちに、突然、介護や介護施設選びは訪れます。
実際に、介護施設は多くのかたにとっての終のすみかになる可能性があります。であるなら、その場所で、当事者もそして家族も「納得できる最期」を迎えたいもの。千葉県八千代市で在宅療養支援診療所を開業、在宅医療専門医としてこれまで800人以上の最期に立ち会って来た中村明澄先生は、「生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないが、ご本人と残される人たちにとっての『ベスト』はある」と言います。中村先生の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)から、「納得できる最期」について考えます。
本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。(大和書房)
「納得いく最期」を迎えるための11の条件
条件4「ゴールは、穏やかに過ごすこと」
■ 病気の治療のように治そうと頑張らない
治療が可能な時期は、希望をもって「頑張って治そう」とすることは、とても大切なことです。でも回復が見込めない病状や老衰が進行している終末期は、「頑張らない」ということが大切になってきます。終末期に「治そう」と頑張ってしまうと、逆に大切な時間を失うことにもなりかねませんので、どちらかというと体力温存の方向にギアチェンジをしていくことを考えるのも大切な時期です。
身体が弱ってきたのは、食べないためではなく病気が進んだためです。動けないのは、リハビリが足りないからではありません。病気が進んで身体が弱ってきたからです。頑張ってうごくことで寿命を縮めてしまうことにもなりかねません。「省エネ」で過ごしていただくのが、穏やかに過ごせる鍵になります。十分頑張ってきたので、今はゆっくり休むときなのです。
■ 「頑張って」は本人を苦しめるだけ
残された時間が限られているのに、「頑張れ」とみなさんよくおっしゃいます。頑張って食べさせたり、寝たきりになっては大変だとリハビリで歩かせようとしたりしてしまうのです。でも周囲が「頑張ってモード」になると、つらくなるのはご本人です。
「頑張れば、もうちょっとでもよくなるのでは」という願望を、死に行く本人に押しつけるのは、それこそ酷。自分の死期を察してもなお、ほとんどの方が「家族が応援しているから頑張らなくちゃ」とまわりの期待に応えようとして、無理をすることになります。
「抗がん剤はつらいからもうやめたいけど、家族がやってほしいから……」とおっしゃる方もいます。本人にはその気がないのに、周囲が「頑張って」と無理強いしてしまうと、現実がつらくなるばかりです。周囲が死を受け入れられさえすれば、ご本人は肩の荷が下りてラクになれることもあります。そして互いに支え合いながら、最期のひとときを過ごせるようになるのです。
■原因を追求しすぎない
老衰で食事がとれなくなってきたり、歩けなくなってきたときに「お年ですから」と言われ、納得できなくて検査し続ける方がいます。本人が納得できなくてあちこちの病院を訪れるのはわかります。ただ、家族がそれをやり続けるのは、私は悲しいことだと思います。
たとえば、こんなケースはどうでしょう?
95歳の女性で、食事量が低下してきました。病気があるかもしれない、と外来を受診すると、医師に「検査しますか?」と聞かれました。
検査してもらうために病院に来たのに、なんでこんなこと聞くのかしら?
みなさんはどう思いましたか?
もし老衰の時期なら、検査でつらい思いをして、今より具合が悪くなるかもしれません。また、胃癌などみつかっても高齢ですと抗がん剤は使用できませんし、年齢的にも手術に堪えられる体力が十分にないため、治療そのものが無理ということになります。それであれば、検査自体必要がないかもしれない、様子を見ながら、食べられるものを少しずつ食べなから、穏やかに過ごす選択肢があってもいいのでは、と思うのです。
家族が病気の原因追求を使命に感じ、ご本人がつらくなるのは避けたいなと思います。
本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。(大和書房)
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。在宅医療専門医・家庭医療専門医・緩和医療認定医。
2000年東京女子医科大学卒業。
2011年より在宅医療に従事。
2012年8月に千葉市のクリニックを承継し、2017年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。
向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホーKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。
病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人キャトル・リーフ理事長としても活躍。