「介護施設選びの体験談」を読んでいると、それぞれの家族にそれぞれの苦悩や葛藤を感じます。その多くは、「介護は家族がするもの」「できるなら自分で介護をしたかった」という思いから、ご家族を施設に入れたことを後悔したり、ご自分を責める気持ちが根底になっているようです。親はいつまでも元気なものと思っていても(実際にはそう思っていたい)、年齢は誰もが公平に重ねるもの、覚悟ができないうちに、突然、介護や介護施設選びは訪れます。
実際に、介護施設は多くのかたにとっての終のすみかになる可能性があります。であるなら、その場所で、当事者もそして家族も「納得できる最期」を迎えたいもの。千葉県八千代市で在宅療養支援診療所を開業、在宅医療専門医としてこれまで800人以上の最期に立ち会って来た中村明澄先生は、「生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないが、ご本人と残される人たちにとっての『ベスト』はある」と言います。中村先生の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)から、「納得できる最期」について考えます。
本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)の一部を抜粋、再編集しています。
「納得いく最期」を迎えるための11の条件
条件7「医療・介護スタッフに心をひらく」
■ まずは相談してみる
何か気になったことや、困ったことがあったら、まずは相談することが大切です。家族でとても悩んでいたけれど、ちょっと相談してみたら意外にすぐ解決できることがあるかもしれません。在宅医療や在宅ケアに関わる専門職の経験と知恵をぜひ頼ってみてください。相談することは、恥ずかしいことでもなんでもありません。パソコンを買い換えようと思ったとき、パソコンの詳しい友人に聞いてみるとあっという間にいろんなことが解決したりしませんか? それに近い気持ちでぜひ気軽に声をかけてください。こんなことを聞いてはいけないんじゃないかと心配せず、まずは相談してみてください。
■ 「患者と医療者」の前に「人と人」の関係
患者と医療者という関係であっても、お互いにやっぱり人と人。医師や看護師も医療者である前に人間です。できるかぎり、いい関係でいたいものです。
そのために大切なのがコミュニケーション。良好なコミュニケーションがとれていれば、居心地がよいだけでなく、気軽に相談もできますし、本音も語りやすいのではないでしょうか?
私たち在宅医療に関わる医師や看護師は、患者さんの住み慣れたご自宅にお邪魔させていただいて医療やケアを提供します。その方らしさのたくさんつまった空間で、その空気を感じながら、いろいろな思いを聞けたらと思っています。その思いは大切にしたいですし、できるかぎり寄り添っていきたいと思っています。
ですが、中には残念ながら「こっちはお金を払っているんだから」と言わんばかりの方もいます。医療は少なくとも7割が税金で賄われる公的で必要なサービスです。最期の過ごし方の希望をできるかぎり叶えることと、身勝手なわがままを聞くことは、似て非なるもの。あまり身勝手なコミュニケーションが続くと、私たちも人間ですからつらくもなりますし疲弊してしまいます。
ご本人とご家族の大切な時間を支えるチームの一員として、お互い信頼しあえる良い関係でいたいものです。
■ 話し合いができることが必須
最期の時間の過ごし方を「決める」のは、ご本人とご家族の役目ではありますが、それを叶えていくために欠かせないのは、思いをちゃんと受け止めてサポートしてくれる医療スタッフの存在です。思いを支える医師や看護師が「しっかり話を聞いて、話し合えること」「医療者側の価値観やルールを押しつけてこないこと」、この2つは必須条件だと思います。心を開いて、話をしても、なかなか聞いてもらえない、医師や看護師が過ごし方を決めていってしまうと感じたら、そう感じたこと自体をまず伝えてみてください。それでも何も変わらないようであれば、二度とない大切な時間を後悔なく過ごすために、医師や看護師の交代を検討することも一つです。
本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。(大和書房)
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。在宅医療専門医・家庭医療専門医・緩和医療認定医。
2000年東京女子医科大学卒業。
2011年より在宅医療に従事。
2012年8月に千葉市のクリニックを承継し、2017年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。
向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホーKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。
病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人キャトル・リーフ理事長としても活躍。