老人ホームに入ったころ、介護付き有料老人ホームでの予想していなかった出来事や、独自のルールに、叔母はストレスを溜めていました。そのストレスをぶつけられた私は、行き場のない怒りやイライラを今度はホーム長にぶつけていました。
悪いのは叔母、いや認知症なのに、私はまるでモンスターペアレントのように、ホーム長にも文句ばかり言っていたような気がします。
知らないおじいさんが部屋に入ってきた。部屋を変えて!
老人ホームの居室は、昼夜問わず、定期的にスタッフが見回りますから、基本的に鍵はかかりません。叔母がその環境に慣れるまで随分時間がかかりました。
認知症状が現れ始めたとはいえ、入居当時はまだ要介護度2。ホームからパソコン教室に通ったり、パソコンに取り込んだ写真をハガキに印刷したり、随分しっかりしていました。
そんな彼女にとって、部屋に「鍵をかけない」状況を受け入れられなかったとしても仕方のないことなのかもしれません。
そして事件は起こりました。認知症の進んだ同じ階の入居者の男性が、夜中に叔母の部屋に入って来たというのです。叔母の悲鳴にも似た大声に、スタッフがすぐに飛んできて連れ出してはくれましたが……。「夜中のスタッフの一番少ない時間に起きたとはいえ、本来あってはいけないこと」とホーム長からは謝罪もありました。
しかし叔母の腹の虫は収まりません。私に電話をして来ては「変なおじさんが私の部屋に入って来た。もう嫌だ、家に帰りたい」と泣きわめき、家に帰れないとわかると、今度は「部屋に鍵をつけろ」「部屋を変えろ!」と怒ったり。
しかし、一人暮らしの家に戻すことはもちろん、ホームの規則で部屋に鍵はつけられず、部屋を変えるにはお金がかかり(叔母が希望した最上階の部屋は入居金が異なり移動するにはプラス料金を払う必要がありました)結局、叔母の望みは何一つ叶えてやることはできず、それから10年、亡くなるまで入居したときと同じ部屋で過ごしました。
自分のお金なのにどうして使えないの?
入居した介護付き有料老人ホームのルールでは、居室にお金を置いておくことは禁じられていました。
欲しいものがあると、まず保証人に確認、OKが出たらホームでお金を立て替え、買い物。月次の利用料支払いで精算が基本ルールです。
定年まで銀行に勤めでお金の管理は全て自分でしていた叔母にとって、好きなときにお財布を持って買い物に出かけられないことは、かなりのストレスだったようです。
ホーム長と話し合って、居室にお金を置くことはできませんでしたが、毎月、一定額をホームに預け、その範囲内であれば、いつでも自由に買い物をしてもいいというルールを作りました。買い物といっても近くのコンビニに出かけるくらいでしたが、それでも好きなときに買い物ができるようになって随分落ち着きました。
しかし、認知症状が進むにつれて、お金に対する執着はますます進み、私や息子が訪ねると「お金がなくなった」とか、「今すぐマンションを売って」と、言っていました。認知症の進行で起きていることだと頭ではわかっているものの、その度に「もう知らない!」と腹を立てていました。
あの頃は、他人であれば優しく対応できるのに、身内にはちっとも優しくできない自分が嫌でたまりませんでした。
(ライター奏多映美)
※入居時点の情報であり、あくまでも個人の感想です。