「介護施設選びの体験談」を読んでいると、それぞれの家族にそれぞれの苦悩や葛藤を感じます。その多くは、「介護は家族がするもの」「できるなら自分で介護をしたかった」という思いから、ご家族を施設に入れたことを後悔したり、ご自分を責める気持ちが根底になっているようです。親はいつまでも元気なものと思っていても(実際にはそう思っていたい)、年齢は誰もが公平に重ねるもの、覚悟ができないうちに、突然、介護や介護施設選びは訪れます。
実際に、介護施設は多くのかたにとっての終のすみかになる可能性があります。であるなら、その場所で、当事者もそして家族も「納得できる最期」を迎えたいもの。千葉県八千代市で在宅療養支援診療所を開業、在宅医療専門医としてこれまで800人以上の最期に立ち会って来た中村明澄先生は、「生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないが、ご本人と残される人たちにとっての『ベスト』はある」と言います。中村先生の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)から、「納得できる最期」について考えます。
本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)の一部を抜粋、再編集しています。
「納得いく最期」を迎えるための11の条件
条件9「いなくなった『あと』のことも考える」
■ 経済的なことも話し合っておけると安心
奥さまが亡くなったあと、ご主人は通帳の場所も暗証番号もわからなくて……というテレビでよく目にする光景は、本当にあります。
そうは言っても、じゃあ、ご家族のほうから「もうすぐ亡くなりそうだから教えて」 と端的に訊けるかといえば、それもなかなかむずかしいもの。 とてもデリケートな部分ですし、もちろん状況によりけりですが、できることなら、 ご本人が自覚的に残される側のことを考えて、話し合う余裕を持てると理想的です。 最期を迎えるまでの準備期間に話し合える状況をつくるのです。
患者さんのなかには、「あとで大変になるだろうから、今日中にお金をおろしてきて」
と自分からはっきり言うタイプの方もいらっしゃいます。「もう死期が迫っているというのに、奥さまがお留守なんてどうしたんだろう?」と思ったら、そう言われて急いで銀行に行っていた、ということもありました。
こうした実務の手続きは後回しになりがちですが、やはり残される側にとっては大きな問題になります。ですから、できるだけ早いうちに情報を残しておけると安心です。
のちのちもめ事になりそうな要因も、ご自分がまだ元気なうちに対策を立てておくべきだと思います。ご自分が亡くなったあと、年金や財産のことで家族がもめるのは何とも悲しいものです。
■ 残される人の人生も大切にする
療養生活でのさまざまな選択についても、ご本人が亡くなった後に家族のそれぞれの人生が続くことをどうか忘れないでいてください。仕事は辞めずにいてください。 困ったときはまわりに相談してください。相談することが苦手な人も多いように思います。ついプライベートなことだから家族の病気や介護のことを周りに言うなんてはばかられると思う方もまだまだ多いでしょう。でも相談をすることで、本当に目の前が開けることがあります。また自分が発信することで、誰かの助けになるかもしれません。介護なんて周りで誰も話してない、と思ったら、あなたがパイオニアになればいいのです。
本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。(大和書房)
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。在宅医療専門医・家庭医療専門医・緩和医療認定医。
2000年東京女子医科大学卒業。
2011年より在宅医療に従事。
2012年8月に千葉市のクリニックを承継し、2017年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。
向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホーKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。
病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人キャトル・リーフ理事長としても活躍。