こんにちは。ファイナンシャルプランナーの前佛(ぜんぶつ)です。私は家計改善のアドバイスのほか、整理収納アドバイザー1級を取得し、暮らし全体の整え方もお伝えしています。介護カレンダーでは親の介護をはじめ、将来介護が必要になったときに役に立つ情報をお伝えしながら、介護にまつわる大切なことを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
ひとり残った親が要介護状態になり施設に入ることになったとき、実家は空き家になってしまいます。親も実家へ帰ることがなく、子どもも引き継ぐ予定がないときに考えられるのは、維持、賃貸、売却の3つの対処法です。そこで、これら3つの対処法が持つメリット・デメリットを確認しながら、空き家になった実家をどうするのがベストなのか考えてみたいと思います。
■実家を空き家のままにしておくとどうなる?
親が介護施設に入所して空き家になった実家をどうすればいいのか、すぐに決められないこともあります。そんなとき、とりあえずそのまま維持する人も少なくないのではないでしょうか。
実家を空き家のままにしておくと、次のようなメリットがあります。
・思い出のある家を持ち続けられる
・親族が将来、実家に住むことができる
・親が施設を出ることになったとき、帰る場所になる
ただ、実家が離れたところにあると、代わりに親族が住むのは難しいこともあるでしょう。また、施設に入所した親が元気になって家に戻ってくることも現実的ではないと思われます。
誰も住むことがなくなった実家は、次のようなデメリットがあります。
・不審者の侵入や盗難、放火のおそれがある
・家屋のメンテナンスや草刈りなど維持管理が必要である
・住まなくても固定資産税がかかる
・特定空き家に指定されると固定資産税が高くなる
空き家は手入れをしないと屋根や外壁などが壊れ、庭の草が伸び放題になって景観を損ね、犯罪の温床になる可能性があります。また、倒壊や衛生上の問題などで近隣に住む人たちへ危害を及ぼすことがあるかもしれません。
そして、(1)倒壊のおそれがある、(2)景観を悪化させる、(3)衛生上有害となる、(4)適切な管理が行われていないといった4項目のすべてに該当すると「特定空き家」に指定されて、固定資産税の税制優遇(住宅用地の軽減措置:小規模住宅用地の課税標準を6分の1に軽減)が受けられなくなります。
空き家をそのまま維持するなら、徹底した管理が必要になり、費用もかかります。もし誰も住む予定がないのであれば、賃貸や売却など他の対処法を検討してみてはいかがでしょうか。
■実家を賃貸に出す
実家が空き家になったとき、親族が誰も住まないのであれば、賃貸に出す方法があります。
賃貸に出すと以下のようなメリットがあります。
・実家を残すことができる
・家賃収入を得られる
・人に住んでもらえることで、家が傷みにくくなる
家は人が住めば劣化を防ぐことができます。それに定期収入があれば、施設の費用に充てられます。
しかし、以下のようなデメリットもあるので注意したいです。
・リフォームが必要な場合がある
・修繕費の負担がある
・契約方法によっては、自分が住みたいタイミングで退去してもらえないときがある
賃貸に出すとき、借り手が付きやすくなるようリフォームをした方がよい場合があります。そうなるとリフォーム費用の負担が発生します。また、賃貸中に設備等に不具合が発生したときは、修繕費の負担が必要です。
さらに、契約方法には注意した方がよいでしょう。普通借家契約にすると、正当な理由がない限り貸主の都合で退去をしてもらうことはできません。その点、定期借家契約であればあらかじめ賃貸期間を設定できるので、もし実家に住みたくなったときでも対処しやすくなるでしょう。賃貸契約の詳細は、不動産会社によく確認することをおすすめします。
■実家を売却する
親が施設から戻ることはない、あるいは子どもや親族が今後実家に住む予定がない場合、実家を売却する方法があります。
実家の売却には次のようなメリットがあります。
・売却代金を施設の入所費用や月額利用料に充てられる
・維持管理費用をかけずに済む
・固定資産税の支払いがなくなる
実家を売却すれば、維持管理に必要な費用や固定資産税の負担がなくなります。また、売却で得た費用を介護施設に支払う費用に使うことができます。
ただ、売却には2つの留意したい点があります。
1つは、家を売却し譲渡所得が発生すると、譲渡所得税を納める必要がある点です。
ただし、これには税制優遇があります。親が実家に住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すれば、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」の適用で、課税される譲渡所得を減らせるため、税額が軽減されます。
さらに、売却する実家の所有期間が10年超であれば、もう1つの特例「所有期間が10年超の居住用財産を売却した場合の軽減税率の特例」も併用できます。この特例の要件を満たせば課税譲渡所得の税率が軽減されます。ただ、これらの特例を受けるには確定申告が必要です。
そしてもう1つの留意点は、親が認知症を発症すると売却できなくなる点です。売却では実家の名義人の意思が必要になるため、親が認知症になると子どもでも代わりに売却できなくなります。認知症になってから売却するときは、成年後見制度を利用して成年後見人に売却をお願いすることになります。
■まとめ
親が介護施設に入所することになり、実家に誰も住まなくなると、家の維持管理が必要になり、費用もかかります。また、住まない家でも固定資産税の負担が必要です。さまざまな負担を考えると、実家が空き家になるのであれば、賃貸に出すが売却して処分することを考えてもよいでしょう。その場合、不動産会社に賃貸と売却のメリット・デメリットなど詳細を確認したうえで決めることをおすすめします。特に売却するならば、住まなくなってから3年以内であれば税制優遇を受けられるので、活用することをおすすめします。
<プロフィール>前佛 朋子(ぜんぶつ ともこ)ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)/ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 / 整理収納アドバイザー1級 / 自分史活用アドバイザー
『安心と心のゆとりのある暮らしができる人を増やしていく』という理念のもと、1人でも多くの人に安心できる暮らしと心の余裕を手に入れていただこうと、家計見直しやライフプランなどの相談業務を行う。ライフイベントに合わせて貯蓄や用途を分類するお金の整理を得意とする。また、離れて暮らす母の介護に関わった経験を活かし、遠距離介護などの相談も受ける。保険や金融商品を売らないファイナンシャルプランナーとして活動中。
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