「納得できる最期」を迎えるための11の条件とは? 在宅医療専門医中村明澄先生と考える <条件その3 >

「納得できる最期」を迎えるための11の条件とは? 在宅医療専門医中村明澄先生と考える <条件その3 >
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介護カレンダー編集部が見聞きした「介護」にまつわる情報をさまざまな観点からお届けします。

こんにちは。介護カレンダー編集部です。

介護施設選びの体験談」を読んでいると、それぞれの家族にそれぞれの苦悩や悩みを感じます。その多くは、「介護は家族がするもの」「できるなら自分で介護をしたかった」という思いから、ご家族を施設に入れたことを後悔したり、ご自分を責める気持ちが根底になっているようです。親はいつまでも元気なものと思っていても(実際にはそう思っていたい)、年齢は誰もが公平に重ねるもの、覚悟ができないうちに、突然、介護や介護施設選びは訪れます。

実際に、介護施設は多くのかたにとっての終のすみかになる可能性があります。であるなら、その場所で、当事者もそして家族も「納得できる最期」を迎えたいもの。千葉県八千代市で在宅療養支援診療所を開業、在宅医療専門医としてこれまで800人以上の最期に立ち会って来た中村明澄先生は、「生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないが、ご本人と残される人たちにとっての『ベスト』はある」と言います。中村先生の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)から、「納得できる最期」について考えます。

本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。

「納得いく最期」を迎えるための11の条件

条件3「思いは言葉にして伝える」

■ 自分がどうしたいかを伝える

 最期の過ごした方を決める上で大切なのは、人生観や価値観から生まれてくる思いです。その思いを「言葉にして伝える」ことが次に大切なことです。思いを言葉にすることで、自分自身の中でもその思いを整理することができますし、言葉にしているうちに、自分自身でも気づいていなかった大切なものの真髄に気づくこともあります。
 「家に帰りたい」「○○がしたい」と心に思っているなら、その思いを必ず誰かに発信してください。「家族なら言わなくてもわかってくれているはず」という考えは、往々にして間違うことがあります。親のことを考えていても、子供たちで意見が分かれることはよくあります。価値観は一人ひとり違うものですから、良し悪しがあるわけでなく、また、それぞれの思いが違うことも悪いことではありません。でも、大切なことを言葉にせず、わかってもらえているはず、という前提でいるのはとても危険なことです。

■ 遠慮と気づかいはほどほどに

 在宅医療に携わっていると、日々ご家族のさまざまな思いに遭遇します。そして多くの方が本当に言いたいことは胸にしまったまま我慢する傾向があると感じます。ご本人とご家族とが互いに気をつかうあまりに、本音を伝えられないのです。たとえば、ご本人から「入院したい」という話が出たとき。
 ご家族としては、最期まで介護するつもりでいたのに、入院したいと言われて大ショック。「やっぱり家じゃ不安なんだ……自分達じゃだめなんだ……」とがっくりきたものの、この時期にそんなことを言って本人につらい思いをさせるのもかわいそう。そこで、ぐっとこらえて入院の選択に同意。
 でも、実はご本人の本音は「本当は入院なんかしたくない。ずっとこのまま家にいたいけど、動けなくなった自分がこのまま家にいたら家族に迷惑になる。家族に迷惑をかけないために入院したほうがいい」というものだったのです。
 ご本人は、最後の結論だけ伝えてしまったのです。お互いがお互いを思いやるあまり、言葉が足りず、汲み取り切れずにぎくしゃくしてしまうのです。
 でも、ふたを開けて両方の話を聞いてみたら「なぁんだ、全員が家で過ごすことを希望しているんじゃないか」と判明する。うそみたいな話ですが、これがけっこうよくあるのです。
 遠慮と気づかいは美徳ではあるものの、最期を迎えるシーンでは、思いきって自分の思いを率直に言葉にする勇気を持ってください。自分の気持ちを伝えられないばかりにすれ違うのは、もったいないとしか言いようがないのです。

■ときに迅速な対応が必要なことも


 終末期の患者さんたちには残された時間が短いため、どこでどう過ごすかという決断を、迅速に行う必要があります。その方にとって明日はもうないかもしれないのが現実だからです。
 そのため入院中の患者さんが「家に帰る」と心を決めたのであれば、退院に向けてつぎのアクションを超特急で進める必要があります。逆のこともあります。自宅にいて、訪問診療を終えて「じゃあ、失礼します」とお宅を出たあとに、患者さんの娘さんが慌てて追いかけてきて「先生、母がもう父の弱っていく姿をみるのが限界みたいです」となれば、すぐに入院の手続きをとることもあります。
 何か思うことがあっとき、躊躇せず迷ったままで構いませんので、ぜひ私たちに伝えてください。気持ちは揺れるものですから、途中で変わっても大丈夫です。でも、その揺れる思いをすべて、私たち医療者にも教えてください。口に出して言ってもらえれば、誰かが動いて、きっと希望を叶えることができます。

※『「在宅死」という選択 納得できる最期のために 』(大和書房)
【中村明澄(なかむらあすみ)先生プロフィール】
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。在宅医療専門医・家庭医療専門医・緩和医療認定医。
2000年東京女子医科大学卒業。
2011年より在宅医療に従事。
2012年8月に千葉市のクリニックを承継し、2017年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。
向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホーKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。
病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人キャトル・リーフ理事長としても活躍。
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