いわゆる高級老人ホームに入居できた叔母は、周りから見れば恵まれた環境、幸せな老後を送っているように見えるでしょう。しかし、集団生活をするということ、知らない誰かに世話をしてもらうこと。長くひとりで生活してきた叔母にとっては、ある意味、つらいこともたくさんあったかもしれないと、今になって思うことがあります。
「お風呂に入りたくない」。その理由は?
入居してすぐ、「お風呂に入りたくない」と叔母から電話がかかってきました。「なんでそんなわがままを言うの?」とムッとして答えると、電話の向こうで「だって……」と泣き出しました。忙しいときにこんな電話してと半分腹をたてながら、「なんでお風呂に入りたくないの?」と繰り返し聞くと……。
「入浴介助をしてくれるスタッフが男性だから嫌なの」と言います。ずっと独身だった叔母にとっては、たとえそれが介護スタッフの仕事だったとはいえ、自分が裸になった姿を男性に見られることは我慢ができなかったということがようやく理解できました。
当然、介護スタッフはシフト制でしたから、入浴介助を男性スタッフが担当することはあるのでしょう。しかし、誰かに介助してもらってお風呂に入るという経験がない私には、そんな状況が想像できず、叔母にはかわいそうなことをしたなと思います。もちろんそのあと、叔母の入浴介助は必ず女性スタッフにしてくれるよう、ホーム長と相談(というより抗議ですね)しました。
叔母がホームに入ってから何かあるたびに、ときには声を荒げて抗議したり、文句を言ったりすることがありました。そのたびに、私が文句を言ったことで、見ていないところで叔母が意地悪されたらどうしようという気持ちに苛まれました。なんだか人質を取られているような気持ちになったこともあります。
もちろん実際にそんなことは起こりませんでしたし、「言っていただかないとわからないから」と真摯に受け止めてくれたホーム長にはとても感謝しています。
男性スタッフが来ると、「あなたはもう帰っていいわ」
男性スタッフの入浴介助は拒否した叔母でしたがお気に入りの男性スタッフがいて、私が叔母を訪ねているときに彼が部屋に来ると、私の存在など忘れでもしたかのように、まるで乙女のように頬を赤らめて彼を見つめていました。
挙げ句の果てに、「あなたはもう帰っていいわ」と言い出す始末。そう言われて「せっかく来たのに」と腹をたてながらも、「私が知らない若かった頃の叔母はどんな恋をしたのだろう?」と思いを巡らせていました。
叔母は、老人ホームに入ってからも、アクティビティやクリスマス会などのイベントのときには、お気に入りの洋服を着て、スカーフやブローチ、ペンダントなどを身につけておしゃれを楽しんでいました。
余談ですが、叔母と一緒にクリスマス会に参加したとき、叔母と仲良しだというかたは、髪にはいくつものピン、胸にはブローチ、指にはたくさんの指輪と、驚くくらいのアクセサリーを着けていらっしゃいました。「ステキですね」と声をかけると、一つずつ指差して、「これは息子が買ってくれたの」「これは孫からのプレゼント」と、うれしそうに説明してくれました。
何をではなく誰からもらったのかを知らせるために、たくさんのアクセサリーをつけていらしたのだと思うと、なんだかちょっと切なくなりました。もしかしたら、クリスマス会に来てほしかったのかもしれません。そんなときは、忙しさを理由にホームになかなか行かない自分に後ろめたさを感じて、胸がチクチクしました。(ライター奏多映美)
※入居時点の情報であり、あくまでも個人の感想です。
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