「納得できる最期」を迎えるための11の条件とは?在宅医療専門医中村明澄先生と考える <条件その8 >  

「納得できる最期」を迎えるための11の条件とは?在宅医療専門医中村明澄先生と考える <条件その8 >  
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介護カレンダー編集部が見聞きした「介護」にまつわる情報をさまざまな観点からお届けします。


介護施設選びの体験談」を読んでいると、それぞれの家族にそれぞれの苦悩や葛藤を感じます。その多くは、「介護は家族がするもの」「できるなら自分で介護をしたかった」という思いから、ご家族を施設に入れたことを後悔したり、ご自分を責める気持ちが根底になっているようです。親はいつまでも元気なものと思っていても(実際にはそう思っていたい)、年齢は誰もが公平に重ねるもの、覚悟ができないうちに、突然、介護や介護施設選びは訪れます。

実際に、介護施設は多くのかたにとっての終のすみかになる可能性があります。であるなら、その場所で、当事者もそして家族も「納得できる最期」を迎えたいもの。千葉県八千代市で在宅療養支援診療所を開業、在宅医療専門医としてこれまで800人以上の最期に立ち会って来た中村明澄先生は、「生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないが、ご本人と残される人たちにとっての『ベスト』はある」と言います。中村先生の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)から、「納得できる最期」について考えます。

本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)の一部を抜粋、再編集しています。

「納得いく最期」を迎えるための11の条件

条件8「看取る人も後悔しないように」

■ 思い出は大きな支えになる

 亡くなっていく人の意思も大切ですが、残されるご家族にとっての後悔を最小限に
することも、とても重要です。
 みなさん、ご本人がどうしたいかばかりを気にされがちなのですが、患者さんが亡
くなったあとも、思い出とともに生きていかなければならないのがご家族です。
 だから残される側にとっても悔いの残らないように、やりたいこと、やってあげた
いと思うことを遠慮なくやってください。
 自分の思いを伝え、実際に行動するのです。そのプロセス自体が、その後の大きな
支えになります。
 
 私自身、母の最期が近づいてきた7月のある日のこと、自分の「やりたい」を実行 しました。もうだいぶ具合が悪くなって、今を逃したら外に連れ出す機会はないだろうという時期でした。本人はちょっと嫌がってはいましたが、車椅子でイトーヨーカ ドーに甚平を買いに行きました。母の入居している施設で開かれる夏祭りに、母と一 緒に選んだおそろいの甚平で参加したかったのです。
 本当に些細なことですが、この思い出は、私にとって今でも支えになっています。 自分が最期にやってあげられてよかったと心から思えると、悲しさや寂しさが消える ことはなくても、大きな癒やしになるものです。

■ 夢のコンサートへ

「 主人をコンサートにつれて行きたい」と奥さまからご連絡があり、看護師と私でコ ンサートへ同行したことがありました。がん終末期のご主人が大好きな演歌歌手のコ ンサートです。
 ご主人は急に具合が悪くなるかもしれない病状で、ふたりきりで行くのはかなり厳しい状況でした。そのため、会場にも協力してもらい、酸素ボンベをつけた車椅子で、 スタッフ通路を駆使し、舞台裏から階段なしで座席までたどり着ける道順を用意していただきました。
今振り返るとちょっとやりすぎだったかなとも思いますが、幸い、当日は無事に何事もなく楽しんで帰ることができました。
 当時、ご本人は「もう無理に行かなくても大丈夫だよ」とおっしゃっていたようで す。けれども「大好きな○○さんの生の歌声を最期に聴かせてあげたい」という、奥さまの強いご希望がありました。
 ご主人が息を引き取ったのは、その1週間後でした。そのあとこんなお手紙を奥様 からいただきました。「私の無理な夢を叶えていただき、今も感謝の気持ちでいっぱいです。Aホールでの○○さんのコンサートは、まさに奇跡でした」
 後悔が残らないようにやりたいこと、やってあげたいことをするのは、ご本人のためだけではありません。残されたご家族にとって、その後を生き抜く力にもなるのです。

■ 自己満足でもいい

ご本人に「何を食べたい?」「どこに行きたい?」と聞いてみても、もしかしたら「もう十分だから大丈夫だよ」という返事しか返ってこないかもしれません。
 でも、もし看取る側が「これを食べさせてあげたい」「ここに連れていってあげたい」 と思うなら、あくまでご本人に無理のない範囲で、やる選択もよいと思っています。 自己満足かなと心配になるかもしれません。でも、その自己満足がおおいにその後の ご家族を支えてくれることがあります。残されるほうにも、後悔しない選択が必要なのです。

本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。(大和書房)

【中村明澄(なかむらあすみ)先生プロフィール】
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。在宅医療専門医・家庭医療専門医・緩和医療認定医。
2000年東京女子医科大学卒業。
2011年より在宅医療に従事。
2012年8月に千葉市のクリニックを承継し、2017年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。
向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホーKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。
病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人キャトル・リーフ理事長としても活躍。

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