要支援・要介護の高齢者や障害者などヘアサロンへ行くことが難しい人を対象とする「訪問理美容」について、リクルートの美容に関する調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー」が新たな調査レポートをまとめた。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、在宅の高齢者のニーズが拡大しているという。新しいヘアスタイル、ヘアカラーに挑戦する人も以前より増加。高齢者の世代や価値観も少しずつ移り変わるなか、「おしゃれを楽しみたい人が多くなった」と報告している。今後、介護施設・事業所が後押しなどを期待される機会が更に増えていくかもしれない。
■ ケアマネの9割が「良い効果を与える」
リクルートは昨年10月、要支援・要介護の高齢者と同居している家族やケアマネジャーなどを対象に調査を実施。2061人の意見を集約した。
同居家族の回答をみると、訪問理美容を利用したことがあるのは31.3%。このうち在宅で利用した人は39.7%で、前年より9.3ポイント高くなっていた。「コロナ禍を踏まえ在宅での利用を増やした」と答えた人は22.3%だった。
また、「新しいヘアスタイルに挑戦した」は18.5%、「新しいヘアカラーに挑戦した」は14.0%。ひげ剃り・うぶ毛剃り、パーマ、ハンドマッサージなどの利用率も前年より伸びており、画一的でないサービスを求める高齢者らが増えている傾向が読み取れた。
ケアマネに訪問理美容後の利用者の変化を聞くと、「笑顔になる」が82.6%、「活力あふれた様子になる」が36.2%、「会話が活発になる」が33.3%。「介護などを受けている人に良い効果を与えると思うか」との問いには、89.8%が「そう思う」と回答していた。
■「利用者は更に増えていく」
専門家は現状をどうみているのか? ホットペッパービューティーアカデミーの廣田純子研究員に詳しく聞いてきた。
−− どうして在宅で訪問理美容のニーズが高まっているのでしょうか?
コロナ禍で介護施設やデイサービスでの施術に微減傾向が表れました。施設などに利用者さんが集まって一斉にカットをするケースが減ったようです。その代わり在宅でサービスを受けたい人が増えた、というのが最近の傾向と言えるでしょう。
−− 高齢者のニーズの変化をどう分析していますか?
新しいヘアスタイル、ヘアカラーに挑戦した方が1割から2割ほどいました。カラーの伸び率は例年より高く、利用メニューの幅も以前より広がっています。やはり時代は変わりつつあると言えるでしょう。単に「髪が短くなればいい」ということではなく、「おしゃれを楽しみたい」と思う方が増えてきました。
−− 訪問理美容の今後をどうみていますか?
利用者は更に増えていくでしょう。戦前生まれの世代には「おしゃれは贅沢」と思われる方も少なくないですが、戦後生まれの世代は「当たり前」「自然なこと」という価値観を持っています。時間が経つに連れて徐々に、訪問理美容のニーズの拡大、多様化が進んでいくと見込んでいます。
−− 介護現場の関係者にどんなことを期待しますか?
そうですね。既に進んでいることは理解していますが、「美容は必需」という考え方がもっと広く浸透すればいいなと思います。今後、ヘアの領域の重要性は更に高まっていくでしょう。「介護などを受けている人に良い効果を与える」と捉えているケアマネさんが多いことも、非常に重要な要素です。高齢者がサービスを求めている時は、可能な範囲でサポートして頂けると良いのではないでしょうか。
■ 皆が「切って良かったね」
訪問理美容の担い手はどんな思いを持っているのか? 東京都世田谷区で訪問美容師として活躍している「アリーナ美容室」の高杉やよいさんに語ってもらった。
−− 訪問理美容を始めたきっかけを教えて下さい。
私の父は要支援者、母は要介護者です。私が離れている間、介護職の方々がどれだけ心の支えになってくれているでしょう。困った時はアドバイスを頂き、不安な時は相談に乗ってくれたりもします。私にも何かできないかと考えました。
−− 訪問理美容にはどんな魅力、やりがいがありますか?
関わる人の多さが楽しみの1つかなと思いました。ご本人さん、ご家族さん、立ち会ってくれるケアマネさん、ヘルパーさんなどがいて、皆で「綺麗になったね」「切って良かった」などと喜び合います。そこがお店と一味違うところでしょうか。
−− コロナ禍ですから苦労もあると思います。
消毒や手洗いはもちろんですが、フェイスシールドの着用や換気なども欠かしたことはありません。高齢者は重症化するリスクが高いと言われていますし、できるだけ感染リスクを下げる対策を徹底することを常に心がけています。
−− 今後の目標や展望を教えて下さい。
訪問理美容は理容室から始まっているケースが多いんです。それはそれで素敵なのですが、「カットしかできない」「メニューを選べない」と思っている方も少なくありません。そうした固定観念を打破し、高齢者を豊かにするサービスを提供していきたいと考えています。
情報提供元:介護のニュースサイトJoint