「納得できる最期」を迎えるための11の条件とは?在宅医療専門医中村明澄先生と考える <条件その10 >  

「納得できる最期」を迎えるための11の条件とは?在宅医療専門医中村明澄先生と考える <条件その10 >  
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介護カレンダー編集部が見聞きした「介護」にまつわる情報をさまざまな観点からお届けします。


介護施設選びの体験談」を読んでいると、それぞれの家族にそれぞれの苦悩や葛藤を感じます。その多くは、「介護は家族がするもの」「できるなら自分で介護をしたかった」という思いから、ご家族を施設に入れたことを後悔したり、ご自分を責める気持ちが根底になっているようです。親はいつまでも元気なものと思っていても(実際にはそう思っていたい)、年齢は誰もが公平に重ねるもの、覚悟ができないうちに、突然、介護や介護施設選びは訪れます。

実際に、介護施設は多くのかたにとっての終のすみかになる可能性があります。であるなら、その場所で、当事者もそして家族も「納得できる最期」を迎えたいもの。千葉県八千代市で在宅療養支援診療所を開業、在宅医療専門医としてこれまで800人以上の最期に立ち会って来た中村明澄先生は、「生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないが、ご本人と残される人たちにとっての『ベスト』はある」と言います。中村先生の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)から、「納得できる最期」について考えます。

本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(大和書房)(※)の一部を抜粋、再編集しています。

「納得いく最期」を迎えるための11の条件

条件10「遠い親戚に気をつける」

■ 遠い親戚との付き合い方

 ご家族が自宅療養を決意し、大変ながらも順調にケアができているというさなかに、突然横やりが入ることがあります。「遠い親戚」が在宅療養をしていると聞きつけて、「なぜ病院に連れて行かなかったのか」と責め立ててくるのです。
 残念ながら、こうしたケースは少なくありません。自宅療養すると決めた過程や日常のケアの実状を知らない人ほど、身勝手にあれこれ口を出してくるのです。そのせいで、せっかく苦労して積み上げてきた環境がガラガラと崩れてしまうという悲しい現実をいくつか目にしてきました。
 このような状況を防ぐためには、何か意見のありそうなご親族やステークホルダーを事前にしっかり把握しておく必要があります。私もご家族には「遠い親戚などで、何かあったときに干渉してきそうな方はいらっしゃいますか?」と訊くようにしています。
 たいていの場合、在宅医療に対する理解がほとんどないために、「家なんかじゃまっとうな医療が受けられるはずがない」とか、「放置しておくだけなんじゃないか」という非難が多いように思います。
 しかし実際は、終末期において、在宅医療で受けられる医療は、病院で受ける医療とほとんど変わりありません。むしろ患者さんやご家族に寄り添った繊細なケアができるので、ご家族に日々の生活にかかる負担を引き受ける心積もりさえあれば、在宅医療で十分な医療が受けられることをお伝えしていくことで、ご理解いただけることもあります。

■最優先すべきは「当事者」

 今の現状は、これまでにいろいろなことを考えて選択してきた結果です。そして、その選択は、これまでの人生の経験と価値観の結果生み出された選択で、ひと言で説明できるものでもないですし、近しい家族でも意見の違いはあります。
 先日、そろそろ亡くなりそうな患者さんの二人の息子さんと私で、点滴をするべきか否かという相談をしていました。
 たまたま、長男さんは奥さまをがんで亡くされていて、人が亡くなる際のケアがどうあるべきかをよくご存じでした。そのため長男さんは点滴をしないことをご希望されていましたが、次男さんは、そうした経験がなく、「点滴をしない」という判断にとてもショックを受けたようでした。
 ともに介護し、ケアの日常を見ている当事者のご家族の中でも意見の相違が生まれます。遠くにいる親戚であるなら、意見の相違は当然のことでしょう。
 普段の状況を知らない人が垣間見ると、こうした繊細なケアの理解が得られないことは十分考えられます。無関係な人ではありませんから、締め出してしまうのではなく、できるだけ事前に説明して理解を得ておけるとよいでしょう。
 ですが、最終的には、誰が何を言ってこようと、優先すべきはご本人と当事者であるご家族。そのことを忘れないようにしてください。

本記事は『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』(※)の一部を抜粋、再編集しています。(大和書房)

【中村明澄(なかむらあすみ)先生プロフィール】
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。在宅医療専門医・家庭医療専門医・緩和医療認定医。
2000年東京女子医科大学卒業。
2011年より在宅医療に従事。
2012年8月に千葉市のクリニックを承継し、2017年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。
向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホーKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。
病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人キャトル・リーフ理事長としても活躍。

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